に一九四一年二十三月であった。
 ここはワシントンの白堊館《はくあかん》の地下十二階であった。その一室の中で大統領ルーズベルトのひびのはいった竹法螺《たけぼら》のような声がする。
「おい、シモンよ。シモンはいないか」
 そこへあたふたと、廊下を走って、過日《かじつ》の特使シモンが駈けこんできた。
「誰だ。おおシモンか。遅かったじゃないか。まだあれは見えないか」
 大統領は、せきこんで訊く。
 シモンは、しきりに胸板《むないた》を拳《こぶし》で叩いていたが、やや鎮《しず》まったところで、やっと声を出した。
「ああ大統領閣下。何もかも一どきに到着いたしました」
「え、何もかも一どきにとは?」
「はあ、待ちに待ったる新軍艦ホノルル号が突如《とつじょ》ニューヨーク沖に現れました。九万九千トンの巨艦ですぞ。いやもう見ただけでびっくりします。全く浮城《うきしろ》とはこのことです。金博士の実力は大したものですねえ」
 と、前特使シモンは、約束の巨艦が金博士から届いたことを知らせた。
「ふむ、そんなに大したものかのう。で、さっきお前のいった何もかも到着というのは、何を指《さ》すのか」
「ああそれは、巨
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