こら中《じゅう》を蹴っとばした。すると何だか靴の先にストンと当ったものがある。しかし注意をしてそこらあたりを見るが、何にも見えないことは同じだった。そのうちに、呀ッと思う間もなく、僕の身体は中心を失ってしまった。身体が斜《なな》めに傾《かたむ》いたのだ。僕はズデンドウと尻餅《しりもち》をつくだろうと思った。ところが尻餅なんかつかないのだ。身体は尚《なお》も傾いて身体が横になる。そこで僕はもう恐怖に怺《こら》えきれなくなって、お前を呼んだのだ」
「ああ、あのときのことですネ」
「すると今度はイキナリ宙ぶらりんになっちゃった。足が天井《てんじょう》にピタリとついた。不思議な気持だ。尚も叫んでいると、今度は頸《くび》がギュウと締まってきた。苦しい、呼吸が出来ない――と思っているうちに、気がボーッとしてきてなにが何だか、記憶が無くなってしまった。こんな不思議なことがまたとあろうか」
 と兄は始めて、この博士の室で遭《あ》ったという危難《きなん》について物語りました。
「眼に見えない生物が、兄さんに飛びかかったんだ」
「そうだ。そう考えるより仕方がない。僕はお医者さまが許して下されば、もっと検《
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