崩れる鬼影
海野十三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)月光下《げっこうか》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)昔|嫦娥《じょうが》という
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)元気なとき[#「とき」に傍点]
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月光下《げっこうか》の箱根山《はこねやま》
それは大変月のいい夜のことでした。
七月の声は聞いても、此所《ここ》は山深い箱根のことです。夜に入ると鎗《やり》の穂先《ほさき》のように冷い風が、どこからともなく流れてきます。
「兄さん。今夜のようだと、夏みたいな気がしないですネ」
「ウン」兄は真黒《まっくろ》い山の上に昇った月から眼を離そうともせず返事をしました。
兄はなにか考えごとを始めているように見えました。兄の癖《くせ》です。兄は理学士なのですが、学校の先生にも成らず、毎日洋書を読んだり、切抜きをしたり、さもないときは、籐椅子《とういす》に凭《もた》れ頭の後に腕を組んでは、ぼんやり考えごとをしていました。なんでも末は地球上に一度も現れたことの無い名探偵になるのだということです。探偵
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