した。「ここの谷村博士の研究と何か関係があるのではないでしょうか。博士と来たら、二十四時間のうち、暇《ひま》さえあれば天体を覗《のぞ》いていられるのですからネ。殊《こと》に月の研究は大したものだという評判です」
「月の研究ですって」と兄は強く聞き返しました。今夜も大変月のいい夜でありました。
「博士が空中を飛んだり、あの窓から眼に見えないそして大きなものが飛び出したり、それから洋服の化物のようなものがウロウロしていたり、あれはどこからどこまでが化物なのかしら」
「それは皆化物だろう」
「兄さんは化物を本当に信じているの」
「化物か何かしらぬが、僕がこの室で遭《あ》ったことはどうも理屈に合わない。あれは普通の人間ではない。眼には見えない生物が居るらしいことは判る。しかし月の光に透《す》かしてみると見えるんだ。僕はこの部屋に入ると、いきなり後からギュッと身体を巻きつけられた。呀《あ》ッと思って、身体を見ると、何にも巻きついていないのだ。しかし力はヒシヒシと加わる。僕は驚いてそれを振り離そうとした。ところがもう両腕が利《き》かないのだ。何者かが、両腕をおさえているのだ。僕は仕方なしに、足でそ
前へ 次へ
全81ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング