ムズさせていましたが、大きい嚔《くさめ》を一つするとパッと眼を開きました。
「こン畜生」
 兄は其《そ》の場《ば》に跳《は》ね起きようとしました。
「やあ気がつきましたネ。もう大丈夫。まァまァお静かに寝ていらっしゃい」
 医者は兄の身体を静かに抑えました。
「おお、兄さん――」
 私は兄のところへ飛びついて、手をとりました。不思議にもう熱がケロリとなくなっていました。
「やあ、お前は無事だったんだネ。兄さんはひどい目に遭《あ》ったよ」
 兄は医者に厚く礼を云って、まだ起きてはいけないかと尋《たず》ねました。医者はもう暫《しばら》く様子を見てからにしようと云いました。
 その間に、私が見たいろいろの不思議な事件の内容を兄に説明しました。
「そうかそうか」だの「それは面白い点だ」などと兄はところどころに言葉を挟《はさ》みながら、私の報告を大変興味探そうに聞いていました。
「兄さん。この家は化物の巣なのかしら」
「そうかも知れないよ」
「でも、化物なんて、今時《いまどき》本当にあるのかしら」
「無いとも云いきれないよ」
「どうも気味の悪い話ですが」と小田原病院の医師《いし》が側から口を切りま
前へ 次へ
全81ページ中45ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング