きました。待ちに待った小田原病院《おだわらびょういん》のお医者さんが到着したのです。
「なァーンだ」
警官は力瘤《ちからこぶ》が脱《ぬ》けて、向うへ行ってしまいました。私はそのお医者さまの手をとらんばかりにして、兄の倒れている二階の室へ案内しました。
兄は依然《いぜん》として、長々と寝ていました。医者は一寸《ちょっと》暗い顔をしましたが、兄の胸を開いて、聴診器《ちょうしんき》をあてました。それから瞼《まぶた》をひっくりかえしたり、懐中電灯で瞳孔《どうこう》を照らしていましたが、
「やあ、これは心配ありません。いま注射をうちますが、直《す》ぐ気がつかれるでしょう」
小さい函《はこ》を開いて、アンプルを取ってくびれたところを切ると、医者は注射器の針を入れて器用に薬液《やくえき》を移しました。そして兄の背中へズブリと針をさしとおしました。やがて注射器の硝子筒《ガラスとう》の薬液は徐々に減ってゆきました。その代りに、兄の顔色が次第に赤味《あかみ》を帯《お》びてきました。ああ、やっぱり、お医者さまの力です。
三本ばかりの注射がすむと、兄は大きい呼吸を始めました。そして鼻や口のあたりをムズ
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