乱れた靴の跡が、点々として柔い土の上についています。
 警部さんは、懐中電灯をつけて、その足跡を検《しら》べ始めました。
「オヤこれは変だな。足跡が途中で消えているぞ」
「消えているといいますと」
「ほら、こっちから足跡がやってきて、ほらほらこういう具合にキリキリ舞いをしてサ、向うへ駈け出していって、さア其処《そこ》で足跡が無くなっているじゃないか」
「成《な》る程《ほど》、これア不思議ですネ」
「こんなことは滅多《めった》にないことだ。おお、ここに何か落ちているぞ。時計だ。懐中時計でメタルがついている。剣道|優賞牌《ゆうしょうはい》、黒田選手に呈《てい》す――」
「あッ、それは黒田君のものです。それがここに落ちているからには……」
「うん、この足跡は黒田君のか。黒田君の足跡は何故ここで消えたんだろう?」


   蘇生《そせい》した帆村探偵《ほむらたんてい》


 そのとき、門の方に当って、けたたましい警笛《けいてき》の音と共に、一台の自動車が滑《すべ》りこんできました。
「何者かッ」
 というんで、自動車の方へ躍《おど》り出てみますと、車上からは黒い鞄《かばん》をもった紳士が降りて
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