躙《にじ》り出てゆきます。息づまるような緊張です。
「オヤオヤ」
戸口のところまで達すると、警部は意外な感に打たれて身を起しました。
「どうしましたどうしました」
私も警官たちと一緒にガタガタと靴を鳴らして戸口へ飛び出しました。外は水を打ったように静かな眺《なが》めです。月光は青々と照《て》り亙《わた》り、虫がチロチロと鳴いています。まるで狐に化かされたような穏《おだや》かな風景です。
「居ないようだネ」と警部が云いました。その声から推《お》して大分《だいぶ》落着《おちつ》いてきたようです。「では全員集まれッ」
全員は直ちにドヤドヤと整列しました。私は恥《はず》かしかったので、横の方で気を付けをしました。
「番号ッ」
一、二、三、……と勇しい呼び声。
「オヤ、一人足りないじゃないか」
「一人足らん。誰が集まらんのだろう」
警官たちは不思議そうに、お互《たが》いの顔をジロジロ眺めました。
「ああ、あの男が居ない。黒田君が居ない」
「そうだ、黒田君が見えんぞ」
黒田君、黒田クーンと呼んで見たが、誰も返事をするものがありません。
「これは穏《おだや》かでない。では直《ただ》ちに手
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