鳴のする家は、漸《ようや》くに判りました。それは、向うに見えている大きい洋館でありました。二階の窓が開いて、何だか白い着物を着た女の人らしいものが、両手を拡げて救いを求めているようです。
「どこからあの家へ行けるんだろう」と兄が疳高《かんだか》い声で叫びました。
「ほら、あすこに門のようなものが見えていますよ」と私は道をすこし上った坂の途中に鉄の格子《こうし》の見えるのを指《ゆびさ》しました。
「うん。あれが門だな。よォし、駈け足だッ」
私達二人は夢中で草深い坂道を駈けあがりました。
「門は締っているぞ」
「どうしましょう」押しても鉄の門はビクとも動きません。
「錠《じょう》がかかっている。面倒だが乗り越えようよ。それッ」
二人はお互《たがい》に助けあって、鉄柵《てっさく》を飛び越えました。下は湿《しめ》っぽい土が砂利《じゃり》を噛《か》んでいました。私はツルリと滑って尻餅《しりもち》をつきましたが、直ぐにまた起上りました。
「オヤッ」
先頭に立っていた兄が、何か恐《こわ》いものに怯《おび》えたらしく、サッと身を引くと私を庇《かば》いました。兄は天の一角をグッと睨《にら》んでいま
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