続いて聞えて来ます。魂《たま》ぎるような悲鳴です。月明《つきあかり》の谿々《たにだに》に、響きわたるさまは、何というか、いと物すさまじい其《そ》の場の光景でした。私の足は、もう云うことをきかなくなって、棒のように地上に突き立ったまま、一歩も進みません。細かい震《ふる》えが全身を襲って、止めようとしても止りません。
「誰か呼んでいるぜ」兄は立ち止ると、両掌《りょうて》を耳のうしろに帆《ほ》のようにかって、首をグルグル聴音機《ちょうおんき》のように廻しています。
「兄さん、兄さん」
「おおッ、こっちだ」兄はハッと形を改めて私の手を握りました。「たしかにあの家らしい。民ちゃん、さあ行ってみよう」
 そういうなり兄の荘六は、私の手をひいたままひた走りに走り出しました。私も仕方なしに走りました。白い山道に、もつれ合った怪しい影が踊ります。二人の影です。
 満月の夜だったことをハッキリと後悔《こうかい》しました。せめて月が無ければ、こんなにまで荒涼《こうりょう》たる風光《ふうこう》に戦慄《せんりつ》することはなかったでしょう。
 一体なにごとが起ったのでしょう?


   飛びゆく怪博士


 悲
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