その大きい頭部が、見る見るうちに角《つの》が出たり、二つに分かれたり、そうかと思うとスーッと縮《ちぢ》んで小さくなったり、その気味《きみ》の悪さといったらありません。なんと形容して云ったらよいか。
 ああ、そうだ。
「崩《くず》れる鬼影《おにかげ》!」
 影が崩れる、鬼の影――というのは、これなのです。私は背中に冷水を浴びたように、ゾーッとしてきました。血が爪先《つまさき》から膝頭《ひざがしら》の辺までスーッと引いたのが判りました。一体これは何者でしょうか。
 鬼か、人か?
 妖怪屋敷《ようかいやしき》を照らす満月《まんげつ》の光は、いよいよ青白《あおじろ》くなって参りました。
 異変の夜は、まだいくばくも過ぎていないのです。
 続いて起ろうとする怪事件は、そも何か。


   警官の紛失《ふんしつ》


「化物は何をしているんでしょ。ねエ警部さん」
 と私は白木警部の腕を抑《おさ》えて云いました。
「なんだか、ガタガタいってたのが、すこしも音がしなくなったようだネ」
 そういって警部は、注意ぶかく頭をもちあげて、戸口の方を、見ました。月光は相変《あいかわ》らず明るく硝子戸《ガラスど》
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