で払《はら》われてしまいました。
「うわーッ」
 警部と私とが助かったばかりで、あとは皆将棋だおしです。もう起きあがれません。警官隊は全滅《ぜんめつ》です。
 モーニングの怪物はと見てあれば、フワフワと開《あ》け放《はな》された玄関に出てゆきました。玄関には入口の扉の影だけが、月光に照らされて三角形の黒い隈《くま》をつくっています。
 怪物はその扉の向うへ出てゆきました。出て行ったと思う間もなく、玄関の厚い硝子戸《ガラスど》にモーニングの影がうつりました。
「おお、あれを見よ、あれを見よ」
 警部さんは生きた心地もないような慄《ふる》え声《ごえ》で叫びました。
 おお、それは何という物凄《ものすご》い影でしょうか。硝子戸に月が落《お》とした影は、モーニングだけの影ではなかったのでした。稍《やや》淡《あわ》い影ではありましたが、モーニングの上に、確かに首らしいものが出ています。その頭がまた四斗樽《しとだる》のように大きいのです。
 モーニングの袖からも手らしいものが出ていますが、それが不釣合《ふつりあい》にも野球のミットのような大きさです。
 いやもっと駭《おどろ》くことがあります。
 
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