叫んだのですから、いよいよ以《もっ》て出鱈目ではありますまい。
影というからには、どこかに映ったものでありましょう。あのときは――そうです、満月《まんげつ》が皎々《こうこう》と照っていました。今はもう屋根の向うに傾《かたむ》きかけたようです。月光に照らされたものには影が出来る筈《はず》です。影というのは、その影ではないでしょうか。あの場合、満月の作る影と考えることは、極《きわ》めて自然な考えだと思いました。すると――
(あの満月に照らされて出来た影なのだ。それはどこへ映《うつ》ったか?)
私は首をふって、改めて室内を見まわしてみましたが、
(ああ、この窓に鬼影が映ったのだッ)
と思わず叫び声をたてました。そうだ、そうだ。兄はこの部屋に入る前までは「鬼影」などと口にしなかったではないですか。これはこの室に入って始めて鬼影を見たとすれば合うではありませんか。しかもこの室の、この窓硝子の上に……
私はツカツカと窓硝子の傍《そば》によりました。そして改めて丸く壊れた窓硝子を端《はし》の方から仔細《しさい》に調べて見ました。破壊したその縁《ふち》は、ザラザラに切り削《そ》いだような歯を剥
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