が、盥位の大きさのものを外に投げたとしたら、そのとき私は室の中に居たのだから、それが眼に映らなければならなかったのに――)
 ところが私は、盥のようなものが、この窓硝子に打ちつけられたところなどを決《けっ》して見ませんでした。いやボール位の大きさのものだってこの硝子板をとおして飛び出したのを見なかったのです。
(すると、この矛盾はどう解決すべきであろうか?)
 全く不思議です。盥位の大きさのものをこの室内から外に投げたと思われるのに、それが見えなかったというのは、どうしたわけでしょう。――そうだ。こういうことが考えられるではありませんか。若《も》し抛《な》げられたものが、無色透明の物体だったとしたらどうでしょうか。仮《かり》に盥ほどもある大きい硝子《ガラス》の塊《かたまり》だったとしたら、そいつは私の眼にもうつらないで、この室から外へ抛げることが出来たでしょう。その外に解きようがありません。
 しかしながら、そんな大きい無色透明の物体なんて在《あ》るのでしょうか。そいつは一体何者でしょうか。それは室内《しつない》のどこに置いてあって、どういう風にして窓硝子へぶっつかったのでしょうか。こ
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