んよ。誰でもあの場合、泣くより外《ほか》に仕方がなかったと思います。
「ああ、ひどい熱だ――」
 兄の額《ひたい》は焼《や》け金《がね》のようです。私はハッと思いました。兄をこの儘《まま》で放って置いたのでは死んでしまうかも知れないぞと思いました。そうなると、もうワアワア泣いてなど居られません。私は一刻も早く、兄の身体を医者に見せなければならないと気がつきました。
 私は気が俄《にわ》かにシッカリ引き締まるのを覚えました。
「日本の少年じゃないか」私は泪をふるい落としました。「非常の時に泣いていてたまるものか。なにくそッ――」
 私はヌックと立ち上ると、お臍《へそ》に有《あり》ったけの力を入れました。
「ウーン」
 すると不思議不思議。気がスーゥと落付いてきました。鬼でも悪魔でも来るものならやってこい――という気になりました。
 私は兄のために、さしあたり医者を迎えねばならないと思いました。この家のうちには電話があるのではないかと思ったので、兄の身体はそのままとし、階下《した》へ降りてみました。階段の下に果して電話機がこっちを覗《のぞ》いていましたので、私は嬉しくなって飛びついてゆきま
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