》です。どうしたらいいだろう。
 一体、兄はどうしてそんな天井に逆さまで立っているのか判らないのです。しかし兄が非常な危険に直面しているらしい事は充分にわかります。
(何とかして早く助けなければ……)
 私は咄嗟《とっさ》の考えで、傍の本棚に駈けよると洋書をとりあげました。
「ええいッ」
 私は洋書を、兄のお尻の辺を覘《ねら》って抛《な》げつけたのです。本は兄の身体から三十センチ程手前でバサッという物音がしてぶつかると軈《やが》てドーンと床の上に落ちて来ました。
 一冊、又一冊。四五冊|抛《な》げつづけている間に、兄の様子が少しずつ変って来ました。それに勢《いきおい》を得て尚《なお》も抛《な》げていますと、急に兄の身体が横にフラリと傾《かたむ》くとどッと下に落ちて来ました。
 私は吃驚《びっくり》して、その下に駈けつけました。抱きとめるつもりが、うまくゆかなくて、兄の身体の下敷になったまま、ズトンと床に仆《たお》れました。
「兄さん、兄さんッ」気を失っている兄を、私は一生懸命にゆすぶりました。
「おお」兄はパッと目を見開きました。「ああ影が崩《くず》れる――」
 謎のような言葉を云った
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