怪物を捕えたも同様ですネ」
私はそのとき、目に見えぬルナ・アミーバーと闘ったことを思いだしました。
「この一匹の外《ほか》はどうしたのですか」
「もう月の世界へ逃げかえったことでしょう。今夜月が出ると、その天体鏡《てんたいきょう》でのぞかせてあげましょう」
「すると、あの小田原の町に現れていたサーベルを腰に下げた老人や、白衣《びゃくい》を着た若者なども、逃げかえったんですか」
「いや、あれは……」と博士はすこし赧《あか》くなって云いました。「あれは私と黒田さんなんです。二人はルナ・アミーバに捕《つかま》って、あのとおり彼奴《あいつ》の身体に捲《ま》きこまれていたのです。だからいかにも私たちは空中に飛んでいるように見えましたが、実はルナが飛んでいたわけで、私たちは、ルナの上に載《の》っているようなものでした。そして彼奴は、私たちを勝手に裸にしたり、そして間違ってサーベルや白衣を着せたりしたのです」
「ああ、そうでしたか」
私は始めて、空中を飛ぶ男の謎がとけたのを感じました。
「では、小田原や隧道で暴れたのも、先生たちの力ではなかったのですネ」
「そうですとも。あれは皆ルナ・アミーバーの一隊がやったことです。たまたま中で見える私たちだけが騒がれたわけです」
「しかし先生、あの崩れる鬼影はどうしたのです。硝子窓に、アリアリと鬼影がうつりましたよ」
「あれはこのルナの流動する形が、うっすりと写ったのです。月の光に透《す》かしてみると、ほんの僅《わず》か、形が見えます。それはあの月光に、一種の偏光が交《まじ》っているから、月光に照らされて硝子板の上にうつるときは、ルナの流動する輪廓《りんかく》が、ぼんやり見えたのですよ」
「ははーん」
私は、この大きな謎が一時に解けたので、思わず大きな溜息《ためいき》をつきました。
そのとき一座が俄《にわ》かにドヨめきました。
「ああ、いよいよ、ルナ・アミーバーが見えて来ましたよ」
大団円《だいだんえん》
ああ何という不思議!
硝子樽の中には、いままで何も無いように思っていましたが、ジリジリブツブツと、なんだか紫色の霧のようなものが動揺を始めたと思う間もなく色は紅《くれない》に移り、次第次第に輪廓《りんかく》がハッキリして来ました。やがてのことに、青味《あおみ》を帯《お》びたドロンとした液体が、クネクネとまるで海蛇《
前へ
次へ
全41ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング