というとあれは人間じゃないの」
「人間ではない。人間はあんなに身体が透《す》きとおるなんてことがないし、それから身体がクニャクニャで大きくなったり小さくなったり出来るものか。また足を地面につかないで力を出すなんておかしいよ。とにかく地球の上に棲《す》んでいる生物に、あんな不思議なものはいない筈《はず》だ」
「じゃ、もしや火星からやって来た生物じゃないかしら」
「さアそれは今のところ何とも云えない。これぞという証拠《しょうこ》が一つも手に入っていないのだからネ」
そういって兄は首を左右にふりました。そのとき私の頭脳の中に、不図《ふと》浮《うか》び出たものがありました。
「あッ、そうだ。その証拠になるものが一つあるんですよ」
「えッ。何だって?」
「証拠ですよ」と云いながら私は大事にしまってあった手帛《ハンカチ》の包みをとり出しました。「これを見て下さい。兄さんが気を失った室の硝子《ガラス》窓のところで発見したのですよ。硝子の壊《こわ》れた縁《ふち》に引懸《ひっか》かっていたのですよ。ほらほら……」
そういって私は、あの白い毛のようなものを取り出して兄に見せると共に、発見当時の一伍一什《いちぶしじゅう》を手短かに語りました。
「ふふーン」兄は大きい歎息《ためいき》をついて、白木警部のさし出す懐中電灯の下に、その得態《えたい》の知れない白毛《しらげ》に見入りました。
「一体なんです。化物が落していったとすると、化物の何です。頭に生えていた白毛ですか」
「イヤそんなものじゃありません。――これはいいものが手に入りました。御覧なさい。これは毛のようで毛ではありません。むしろセルロイドに似ています。しかしセルロイドと違って、こんなによく撓《たわ》みます。しかも非常に硬《かた》い。こんなに硬くて、こんなによく撓むということは面白いことです。覚えていらっしゃるでしょうネ。あの化物の身体は、自由に伸《の》び縮《ちぢ》みをするということ、そして透明だということ、――これがあの化物の皮膚の一部なのです」
「皮膚の一部ですって!」
「そうです。化物が硝子《ガラス》窓を破って外へ飛びだしたときに、剃刀《かみそり》よりも鋭い角のついた硝子《ガラス》の破片《はへん》でわれとわが皮膚を傷つけたのです。そして剥《む》けた皮膚の一部がこの白毛《しらげ》みたいなものなのです。いやこれは中々面白いこと
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