になってきましたよ」
 兄はひとりで悦《えつ》に浸《ひた》っていました。


   化物追跡戦《ばけものついせきせん》


「とにかく此《こ》の白毛みたいなものを早速《さっそく》東京へ送って分析して貰うことにしましょう。分析して貰えば、これが地球上に既に発見されているものか、それとも他のものか、きっと見分けがつくと思いますよ」
「なるほど、なるほど。いいですね」と白木警部は大きく肯《うなず》きました。
 そのとき先頭に駆《はし》っている自動車から、ポポーッ、ポポーッと警笛《けいてき》が鳴りひびきました。
「なんだ」
「イヤ警部どの、もう小田原へ入りましたが、ちょっと外を御覧下さい」
「うむ――」
 警部さんにつづいて私達も外を覗《のぞ》いてみました。両側の家は、停電でもしているかのように真暗《まっくら》です。しかしヘッド・ライトに照らされて街並《まちなみ》がやっと見えます。ああ、何たる惨状《さんじょう》でしょうか。
「うむ、これはひどい!」
「まるで大地震《おおじしん》の跡のようだッ」
「おお、向うに火が見えるぞ」
 近づいてみると、それは町の辻《つじ》に設《もう》けられた篝火《かがりび》です。青年団員やボーイスカウトの勇しい姿も見えます。――警官の一隊がバラバラと駈けて来ました。
「どッどうした」白木警部は手をあげて怒鳴《どな》るように云いました。
「やあ、警部どの」と頤髯《あごひげ》の生《は》えた警官が青ざめた顔を近づけました。「やっと下火《したび》になりました。その代り、小田原の町は御覧のとおり滅茶滅茶《めちゃめちゃ》です」
「二人の怪人というのはどうした」
「決死隊が追跡中です。小田原駅の上に飛びあがり、暗い鉄道線路の上を東の方へ逃げてゆきました」
「そうか、じゃ私達も行ってみよう」
 自動車は更《さら》にエンジンをかけて、スピードを早めました。自動車に仕掛けてあるサイレンの呻《うな》りが、情景を一層|物凄《ものすご》くしました。どんどん飛ばしてゆくほどに、とうとう小田原の町を外《はず》れて、線路と並行になりました。生《なま》ぐさい草の香《か》が鼻をうちます。
「どうだ、見えないか」と警部は大童《おおわらわ》です。
「さアまだ見えませんが……呀《あ》ッ呀《あ》ッ、居ました、居ましたッ」
「どこだ、どこだッ」
「いま探照灯《たんしょうとう》をそっちへ廻しますか
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