官たちは例の池のところに、何か協議を開いていました。私は兄を紹介する役目になりました。
「いや皆さん、私まで御心配かけまして」と兄は挨拶《あいさつ》をしました。「ときに警官の方が一人見えないそうですね」
「黒田という者ですがネ。これ御覧なさい。この足跡がそうなんですが、黒田君は途中で突然身体が消えてしまったことになるので、今|皆《みんな》と智慧を絞《しぼ》っているのですが、どうにも考えがつきません」
「突然身体が消えるというのは可笑《おか》しいですネ。見えなくなることがあったとしても足跡は見えなくならんでしょう。矢張り泥の上についていなければならんと思いますがネ」
「それもそうですネ」
「僕の考えでは、黒田さんは、私を襲ったと同じ怪物に、いきなり掠《さら》われたんだと思いますよ。あの怪物が、追っかけた黒田さんの身体を掴《つかま》え、空中へ攫《さら》いあげたのでしょう。黒田さんの身体は宙に浮いた瞬間、足跡は泥の上につかなくなったわけです。それで理窟《りくつ》はつくと思います」
「なるほど、黒田君が空中にまきあげられたとすればそうなりますネ。しかし可笑しいじゃないですか」と警部はちょっと言葉を停めてから「それだと黒田君の足跡のある近所に怪物の足跡も一緒に残っていなければならんと思いますがネ」
「さあそれは今のところ僕にも判らないんです」と兄は頭を左右に振りました。
そのとき家の方にいた警官が一人、バタバタと駈け出してきました。
「警部どの、警部どの」
「おお、ここだッ。どうした」
ソレッというので、先程の異変に懲《こ》りている警官隊は、集まって来ました。
「いま本署に事件を報告いたしました。ところが、その報告が終るか終らないうちに、今度は本署の方から、怪事件が突発したから、警部どの始め皆に、なるべくこっちへ救援《きゅうえん》に帰って呉《く》れとの署長どのの御命令です」
「はて、怪事件て何だい」
「深夜の小田原《おだわら》に怪人が二人現れたそうです。そいつが乱暴にも寝静まっている小田原の町家《ちょうか》を、一軒一軒ぶっこわして歩いているそうです」
「抑えればいいじゃないか」
「ところがこの怪人は、とても力があるのです。十人や二十人の警官隊が向っていっても駄目なんです。鉄の扉《ドア》でもコンクリートの壁でもドンドン打ち抜いてゆくのです。そして盛んに何か探しているらしいが
前へ
次へ
全41ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング