《む》いていました。私はそこにあったスタンドを取上げてどんな細かいことも見遁《みのが》すまいと、眼を皿のようにして観察してゆきました。
しかし別に手懸《てがか》りになるようなものも見えません。台をして上の方もよく見ました。だんだんと反対の側を下の方へ見て行きましたが、
「オヤ」
と思わず私は叫びました。
「これは何だろう?」
硝子の切《き》り削《そ》いだような縁《ふち》に、白い毛のようなものが二三本|引懸《ひっかか》っているではありませんか。ぼんやりして居れば見遁《みのが》してしまうほどの細いものです。余り何も得るところがなかったので、それでこんな小さなものに気がついたわけでした。
これを若《も》し見落していたならば、この怪事件の真相は、或いはいまだに解けていなかったかも知れません。それは後《のち》の話です。
私はハンカチーフを出して、その白い毛のようなものを硝子の縁から取りはなしました。そしてそのまま折《お》り畳《たた》んで、ポケットに仕舞いこんだのでした。
丁度《ちょうど》そのときです。
戸外《こがい》に、やかましいサイレンの音が鳴り出しました。
ブーウ、ウ、ウ。ブーウ、ウ、ウ。
まるで怪獣のような呻《うな》り声です。
破れた窓から外に首を出してみますと、どうでしょう、遥《はる》か下の街道《かいどう》をこっちへ突進して来る自動車のヘッドライトが一《ひ》イ、二《ふ》ウ、三《み》イ、ときどきパッと眩《まぶ》しい眼玉をこっちへ向けます。いよいよ警察隊がやって来たのです。頭からポッポッと湯気《ゆげ》を出して怒っている警官の顔が見えるようでした。
ふりかえってみると、兄は依然として絨氈《じゅうたん》の上に長くなったまま、苦しそうな呼吸をしていました。
私は階段をトントンと下って、老婦人の室《へや》の扉《ドア》を叩《たた》きました。
「おばさん。いよいよ警官が来ましたよ。もう大丈夫ですよ」
そう云いながら、私は扉を開いて室内へ一歩踏み入れました。
「や、や、やッ――」
私の心臓はパッタリ停ったように感じました。私は一体そこで、何を見たでしょうか?
妖怪屋敷《ようかいやしき》
この室の扉《ドア》を開くまでは、私は老婦人ひとりが、静かに寝台《ベッド》の上に睡《ねむ》っていることと思っていました。ところがどうでしょう。いま扉を押して見て
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