う考えて来ると、折角《せっかく》謎がとけてきたように見えましたが、どうしてどうして、答はますます詰《つま》ってくるばかりです。なぜなれば、そんな眼に見えないもの(又は眼に見え難《にく》いもの)で、莫迦《ばか》に大きいもの、そして硝子を壊《こわ》す力があるようなもの、そしてそれは誰が抛《な》げたか――イヤそれはまるで化物屋敷の出来ごとでもなければ、そんな不思議は解けないでしょう。
「ム――」
と私は其の場に呻《うな》りながら腕組《うでぐみ》をいたしました。
眼に見えないか、見えにくいもので、盥《たらい》位の大きさ、形は丸くて、硝子を壊す位の重いもので、その上、簡単に室内から投げられるようなものとは、一体何だろう。
怪《あや》しい白毛《しらげ》(?)
私はそのときに、「崩れる鬼影」という謎のような言葉を思い出しました。
ああいう非常時に、人間というものは、驚きのなかにも案外たいへんうまい形容の言葉を言うものです。「鬼影」というも「崩れる」というも、決して出鱈目《でたらめ》の言葉ではありますまい。ことに此《こ》の家《や》の老婦人も兄も、全く同じ「崩れる鬼影」という言葉を叫んだのですから、いよいよ以《もっ》て出鱈目ではありますまい。
影というからには、どこかに映ったものでありましょう。あのときは――そうです、満月《まんげつ》が皎々《こうこう》と照っていました。今はもう屋根の向うに傾《かたむ》きかけたようです。月光に照らされたものには影が出来る筈《はず》です。影というのは、その影ではないでしょうか。あの場合、満月の作る影と考えることは、極《きわ》めて自然な考えだと思いました。すると――
(あの満月に照らされて出来た影なのだ。それはどこへ映《うつ》ったか?)
私は首をふって、改めて室内を見まわしてみましたが、
(ああ、この窓に鬼影が映ったのだッ)
と思わず叫び声をたてました。そうだ、そうだ。兄はこの部屋に入る前までは「鬼影」などと口にしなかったではないですか。これはこの室に入って始めて鬼影を見たとすれば合うではありませんか。しかもこの室の、この窓硝子の上に……
私はツカツカと窓硝子の傍《そば》によりました。そして改めて丸く壊れた窓硝子を端《はし》の方から仔細《しさい》に調べて見ました。破壊したその縁《ふち》は、ザラザラに切り削《そ》いだような歯を剥
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