それに応じて、どやどやと駈けよってくる捜査隊の入りみだれた足音!
「ちぇっ、しまった」
 と機関大尉は舌うちしながら、足音と反対の方へ、狭い通路を走りだした。
「こら、待たんか」
 ぱぱーん、だだーん。
 銃声は背後間近に鳴りひびく。
 ひゅーん、ひゅーんと弾丸は機関大尉の耳もとを掠《かす》めるが、運よく当らない。
 が、そのうちに彼は、通路の両方から挟まれてしまった。
「ええい、逃げるだけ逃げてみよう。攻勢防禦だ」
 と人数の少い方の通路を見きわめると、猛然矢のように突入した。
 敵のひるむところを、よしきたとばかり猛進して、相手を投げとばし、敵の体をのり越えて走り続けたが、とうとう袋小路の中にとびこんでしまった。そこから先は路《みち》がない。ただ行当りをさえぎっている塀は、そう高くはない。
「よし来た」
 彼は咄嗟《とっさ》に、つつーっと走って弾みをつけると、機械体操の要領で、えいと叫んで塀にとびついた。
 下は海――かと思ったが、そうではなくて一段だけ狭い甲板であった。暑くるしい夜をそこに涼んでいたらしい一人の苦力《クーリー》がびっくりしてとびおきた。
 川上機関大尉はえい
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