っと懸声して、塀を向こうにとび越えた。と同時にうわーっという叫が下におちていったかと思うと、やがてどぼーんと大きな水音が遥か海面から聞えてきた。
 そのとき追跡隊がおいついて塀によじのぼった。
「あっ、あそこに! とうとうとびこみやがったんだ」
 呼笛が高く吹かれた。人々は集ってきた。泡だつ波紋を目がけて探照灯が何条も照らした。
 その真中に浮かびでた人間の頭。
 だだだーん、ぱぱぱーんとはげしい銃声が波紋の中の人間に集中された。
 海面はとびこむ弾丸のためにしぶきをあげた。やがて人間の頭は、その下に沈んでしまった。
「あっはっはっ、大骨を折らせやがった」
 追跡隊の人々は、面白そうに笑いあった。
 ああ、川上機関大尉は壮途半ばにして遂に南海の藻屑と消え去ってしまったのであろうか。その謎を包んだまま、波紋はどこまでもどこまでもひろがってゆく。
 だが、波紋が消えてしまうころ、その謎もまたとけるであろう。


   無電は飛ぶ


(突然危険迫る。無線機械発見せられた――)
 という悲壮な秘密無線電信を最後として、わが練習艦隊と川上機関大尉との連絡は、ぷつりと切れてしまった。
 月光ひと
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