例の川上機関大尉の言葉を思いだしたというわけです」
「ふふん、――」
「あいつも、私に劣らず変り者でございますね。川上が失踪するその前夜、やはり一升壜をさげて私のところへやってまいりまして、酒をのみました。そのとき川上がいいますことに、このつぎ日本酒をのんだとき、今夜俺のいった言葉を思い出してくれ――というのです。そこで思い出しましたよ。その日彼が残していった言葉を――」
「ふむ、――」
「その言葉は、今日に至って思いあたりましたが、その日は一向気がつきませんでした。川上はこんなことをいいました。『貴様にもよくわかる無用の長物の飛行島を、なぜ千五百万ポンドの巨費をかけてつくるのだろうか。しかも飛行島を置くなら、なにもあんな南シナ海などに置かず、大西洋の真中とか、大洋州の間にとか、いくらでももっと役に立つところがあるではないか』――といったんです。艦長」
「うむ、なるほど」
 艦長は言葉もすくなく、しずかにコップを唇にもっていった。
 長谷部大尉の方は、これは血走った眼をして、実に真剣な色が見える。
「――そこで私は今夜、そういった川上の腹の中を読みとることが出来たのです。艦長、川上は、
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