いか。今夜はばかに遠慮しとるじゃないか。さあ、入れ。久しぶりで気焔をきかせて貰うかな」
 艦長は笑いながら、腰かけから悠然と立つと、机のところを離れて、室の隅にある籐椅子の方へ歩いていった。
「はあ、失礼します」
 長谷部大尉は思いきって、籐椅子の一つに腰をおろして、一升壜を卓子《テーブル》の上に置いた。
「ほほう、相変らず仲のよい友達を連れているね」
 艦長はにこりとされた。
「ははっ、――」大尉は坊主刈の頭へちょっと手をもっていって、
「失礼でありますが、一杯いかがでありますか」
「うむ、丁度いいところじゃ。では一杯もらおう」
「えっ、それはかたじけないことで――」
 と、長谷部大尉は、素早いモーションで、隠しから二つのコップをつかみ出すと、卓子の上に置いた。そして一升壜をとって、艦長のコップに、なみなみと黄金いろの液体を注いだのであった。
 一たいこの深夜、長谷部大尉はどうした気持で、艦長のところへ一升壜などを持ちこんだのであろうか。


   極秘


「私はさっき自分の部屋で、ちびりちびりやっていたのです」
 と長谷部大尉は、酌をしながらぼつぼつ語りだした。
「ところがふと、
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