だした。
英人たちはびっくりして、あとを追いかけた。この騒ぎにひきかえして来たスミス中尉も、一しょになって追いかけた。
杉田二等水兵は、うしろに手錠をはめられたまま、死にものぐるいで甲板を走る。彼は海中にとびこむつもりだ。
スミス中尉は、たまりかねてか、ピストルを右手にもちなおすと、杉田の背後めがけて覘《ねらい》をさだめた。
「こら、待て。撃っちゃならん」
とリット少将が叫んだ。しかし時すでにおそかった。
だだーん。
銃声は轟然と、あたりにひびいた。
「あっ、――」
舷の端へもう一歩というところで、杉田はもんどりうって転んだ。そしてそのまま甲板を越えて、杉田の姿は消えた。
まっさかさまに海中へ――。
そうなると手錠をはめられた杉田二等水兵は、泳ぐこともできないで溺死するほかないであろう。死は目前にあった。――
が、そのとき不思議な運命が、彼の身の上にふってわいた。
海中へひたむきに墜落してゆく杉田の体が、途中でぴたりと停ったのである。不思議なことが起った。
だが、それは不思議ではなかった。落ちゆく杉田の体を、むずと抱きとめた者がいるのだ。それは一たい誰であったろ
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