う。
それは外でもない。頭にぐるぐる繃帯をしたペンキ塗の中国人であった。リット少将とハバノフ氏の密談する塔の屋上で、檣《マスト》にペンキを塗っていたあの怪中国人であった。
彼はなぜ、命がけの冒険をしてまで杉田二等水兵を抱きとめたのだろう。
諸君! まことに不思議な怪中国人ではないか!
軍艦明石
練習艦隊須磨明石の二艦は、針路を北々東にとって、暗夜の南シナ海を航行してゆく。
もう夜はかなりふけていて、さっき午後十一時の時鐘が鳴りひびいた。
非番の水兵たちは、梁につりわたしたハンモックの中に、ぐっすり眠っていた。
ただ機関だけが、ごとんごとんと絶間なく力強い音をたてている。
明後日、香港につくまでは、こうして機関は鳴りつづけているだろう。
が、二番艦明石の艦長室では、加賀大佐が、きちんと机に向かっていられた。
机上には、十枚ばかりの同じ形の紙片が積みかさねてあった。艦長はその一番上の一枚に見入っているのだった。
「ふーむ、――」
軽い吐息が、洩れた。
一たい艦長は、なにを考えているのだろう。
そのとき入口の扉がこつこつと鳴った。
「おう」
やがて扉
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