ジャックはにくにくしげにいい放って、いまは自由のきかない杉田二等水兵の顔をぴしりぴしりとひっぱたいた。
 杉田は歯をくいしばってじっと、こらえた。
 無念のなみだがきらりと頬をつたった。


   飛行島の大秘密


 ここ建設工事中の飛行島の最上甲板であった。
 白髪|赭顔《しゃがん》の、飛行島建設団長リット少将と、もう一人、涼しそうなヘルメット帽をかぶって白麻の背広のふとった紳士とが、同じように双眼鏡を眼にあててはるか北の方の水平線を眺めている。そのうちに、リット少将は、双眼鏡から眼を放し、軽く笑って、
「どうです。ハバノフさん。とうとうなにも知らずに帰ってゆきましたよ」
「いやあ、私もひやひやしていたんだが、うまくゆきましたねえ」
 と、ハバノフと呼ばれたヘルメットの紳士も、はればれと笑った。
 二人がいましも見送った北方の水平線には、二条の煙をあげた二隻の軍艦が小さく見える。
 いうまでもなく、わが帝国海軍の練習艦隊、明石と須磨の二艦だった。
 二人の会話には、どう考えてもわが練習艦隊にたいする好意的な意味が発見されなかった。一たいどうしたわけだろう。
「さあ、ハバノフさん
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