。明石、須磨はもう大丈夫ひっかえしてきませんよ。では船室へいって、おちついてお話をしようじゃありませんか」
「そうですね。もう大丈夫でしょうね。どうも私は日本軍人が傍へくると、火のついたダイナマイトに近づいたようで、虫がすかんですよ」
「まあ、こっちへいらっしゃい」
 リット少将は、ハバノフ氏を案内して、その最上甲板に建ててある「鋼鉄の宮殿」とよばれる大きな四角い塔のうちへ入った。
 そこはリット少将をはじめ、主だった英人技師の宿泊所であった。中は、一流のホテルのように、豪華なものだった。
 二人は、赤い絨毯をしきつめた大広間の真中に、籐椅子を向かいあわせて腰を下した。
「いかがですか、ハバノフさん。この飛行島をごらんになった上からは、貴下のお国でも日本に対してすぐさま硬い決心をしてくださるでしょうね」
「そうですねえ、――」
 とハバノフ氏は言葉を濁して、卓上の函から葉巻煙草をとって口にくわえた。
 このハバノフ氏というのは誰あろう。これぞ赤きコミンテルンの国、ソビエト連邦の密使であって、元海軍人民委員長という海軍大臣と軍令部長とを一しょにしたような要職にいた軍人であった。
「ハバノ
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