て、酒壜もろとも卓子をひっくりかえしてしまったのはジャックの巨体だった。まるで爆撃機のプロペラーが廻ったように、もんどりうって、その卓子《テーブル》の上に叩きつけられたのだ。
「うーむ」
 と、大男はうなった。それまではよかったけれど、これを見て驚いたのは、室内の乱暴な白人の手下ども五六人だ。やがてわれにかえると親分の一大事とばかり、どっと杉田にとびかかってきた。
 こうなっては仕方がない。杉田も立派な帝国軍人だ。侮辱をうけて黙っていられない。腕に覚の柔道で、とびこんでくるやつを腰車にかけてなげとばし、つづいて拳固をつきだす奴の手を逆にとって背負いなげにと、阿修羅のように力戦奮闘した。が、いくら強いといってもこちらは一人、相手は大勢の命しらずの乱暴者だ。杉田はとうとう大勢に組み伏せられた上、手錠をはめられてしまった。そして傍の鉄の柱に、胴中をぐるぐる巻にされた。
「さあどうだ。よくもひどい目にあわせたな。もう手むかい出来めえ。さあ、こうしておいて、いやでも川上という士官の秘密をしゃべらせ、団長へ売りつけるんだ。はっはっはっ、手前は福の神だよ。福の神が、そんな食いつきそうな顔をするなよ」
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