る。ぴーぴーじゃんじゃんやかましい楽器を鳴らしている見世物もある。すべて昨日見物に歩いたときと同じ風景だ。その間を非番の各国人が、酒に酔って、ふらふら歩いている。
一つの街角のようなところで、張は階下につづく階段を指さした。そして先に立ってことことと下りてゆく。
杉田二等水兵も、それにつづいて急な階段を下って行ったが、下りてみると、そこはごみごみした住宅街といったようなところ。むっと臭気が鼻をつく。労働者の宿泊するところらしい。
「こっちへこっちへ」
とでもいいたげに、張は指さしては、ずんずん先に立つ。一たいどこへつれてゆくのかしらないが、早く機関大尉の服を預けにきた主にあいたいものだ。その人にきけば、きっと機関大尉の消息が知れるであろう。
すると張は、一つの扉の前に立ち停った。
「ここだ。いま呼んでみるから待て」
と、でもいいたげな身ぶりをした。
荒けずりの荷物箱の板を釘でうちつけたようなお粗末な扉だ。その小屋には、どういうものか、窓があいていない。入口には数字でもって、室の番号が書いてあるだけだ。うすきみがわるい。
張が扉をことことと叩くと、扉に小さな窓があいた。その
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