小さな窓から、人間の眼が一つのぞいた。張がその眼に向かって、なにか早口でしゃべると、窓はまた元のようにぱたりとしまった。
しばらく待つうちに、扉がぎいと内側へ開いた。
張は杉田二等水兵に、さあ入れと手まねで扉のうちを指さした。室のうちは真暗だ。入口に近い板の間に、胴中から壊れたウイスキーの壜が転がっている。そしてぷーんと強い酒の匂いが、杉田の鼻をついた。
(これは油断のならぬ場所だぞ)
と、杉田は入りかけて躊躇していると、いきなり後からいやというほど前へつきとばされた。張が不意に力いっぱいつきとばしたのだ。
「あっ、――」
という間もない。杉田はどーんと扉もろとも室内に転げこんだ。
「うーむ!」
転げこんだ拍子に、杉田は大きな箱のようなものの角で、いやというほど向脛《むこうずね》をうちつけ、どたんと床に倒れた。
「しまった。欺《だま》しやがったな」
杉田は痛手をこらえよろよろと起きあがると、いま入ってきた入口の扉の方へ突進した。
扉のところには、さっきのボーイが立っていた。そのボーイの手には、いつの間にかピストルが握られていて、きらりと光った。
「近よれば、ぶっ放すぞ」
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