の両輪伸《りようわのし》こそは遠泳にはもってこいの泳法だ。
 杉田二等水兵は、飛行島目ざして必死だ。
「うむ、もう一息!」
 この南シナ海には、無数の人喰鮫が棲んでいる。それに、下からぱくりとやられると、もうおしまいだ。
「川上機関大尉。私がそこへ泳ぎつくまで、どうか生きていて下さい。杉田はきっとお助けします」
 杉田二等水兵には、誰にもいえない、一つの秘密があった。飛行島へ川上機関大尉と一しょに上陸して、共楽街の前で左右に別れる時、機関大尉から重大なる用事をいいつけられた。
 それは帰艦の前に、その共楽街にある広珍という中華料理店に立ち寄って、一つの荷物をうけとって帰れ。そして帰ったら、俺の室に持って行ってその荷物をあけておいてくれ。これはその広珍という中華料理店で荷物を渡してもらう時の合札だといって、ボール紙の札を杉田に渡した。その札には、白い羽と赤い鶏冠《とさか》をもった矮鶏《ちゃぼ》の絵が描いてあった。
 杉田二等水兵は、その命をうけて、別れようとすると、川上機関大尉はなにを思ったか彼の傍へつかつかと近づいて、ぐっと手を握りしめながら、
「杉田、では頼んだぞ。それからもう一つ大
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