か俺を男にしてくれ。それに俺には、いやな疑いがかかっているのだ。俺が川上機関大尉の行動を知っていていわないように思われている。俺は知らないのだ。たとえそれを察していても、川上機関大尉は自分の命も名も捨てて行かれたのだ。それをどうしていえるものか。俺は貴様みたいにおしゃべり病にかかってはおらん。――あわわ、しまった。とにかくそういって杉田は泣いて私に見張を頼んだのであります。わ、私も泣きました。それで見張に立ちました。涙があとからあとから湧いて、見張をしてもよく見えませんでした。私は覚悟しています。どうか厳罰に処してください」
 一座はしーんと水をうったよう。誰か痍《はなみず》をすする者がある。
 眼を真赤にしている者がある。
「よおし、よくしゃべった。おい大辻、俺と一しょに艦長室へこい」
 そういった長谷部大尉の眼も赤かった。


   川上機関大尉の秘密


 波間に、杉田二等水兵の首が一つ、ぽつんとただよっている。
 南海の太陽は、いま彼の顔に灼けつくように照っている。
 彼は海面に波紋をたてぬように静かに静かに泳いでいる。クロールや、抜手にくらべるとはなやかではないが、この水府流
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