白人も黒人も、顔の黄いろい東洋人も――。
 ららららら。ひゅーっ。
 飛行島の最上甲板には、飛行島建設団長のリット少将の見送る顔も見える。
 桁には、また新たに信号旗がするするとあがった。
「出港に際し、リット少将に対し、深甚なる敬意を表す」
 白髪紅顔のリット少将は、にっこりとしてまた挙手の礼を送った。
 飛行島の信号鉄塔の上にも、安全なる航海を祈るという旗があがった。
 飛行島に働いている連中は、仕事をやめて、盛んに手をふり、口笛をふく。
 前艦橋につったって、長谷部大尉は双眼鏡を眼にあてて、この盛大なる見送りの人々をじっと眺めていた。顔、顔! 数百数千の顔を一人も見落すまいと!
 鉄桁の間、起重機の上、各甲板、共楽街の屋根、アパートの窓――どこにも顔、また顔の鈴なりだ。
 その中から大尉は心に念ずるただ一つの顔をさがし出そうとして、一生懸命であった。大尉の念ずる顔とはいうまでもなく、川上機関大尉のあの凛々《りり》しい顔であった。
 長谷部大尉は、双眼鏡を眼にあてたまま、彫像のように動かない。その鏡中には、さだめし数えつくせないほどの顔が動いていることだろう。
「うむ、――」
 と
前へ 次へ
全258ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング