声のする方を見た。そこは真青な海原だった。絵に描いたような美しい夜の海原だった。少女の声は、すぐ下の波の間から聞えるのだった。
「誰か?」
「私です」
 それは聞いたことのある声だった。しかしリット提督には、声の主の姿が見えなかった。
(不思議なことがあればあるもの……)
 提督は念のために舷のところまで歩いていった。そして舷側につかまって下を見た。
「おお」
 提督はぎくりとした。
 舷側を洗う白い飛沫《しぶき》の上に、一人の少女の寝姿があった。梨花だ。中国少女の梨花だ。鋼鉄の宮殿の中を、栗鼠のようにちょこちょこととびまわって、雑用をつとめていた梨花の姿だった。
「梨花か。なぜそんなところに寝ているんだ。波にさらわれてしまうではないか。早く甲板へあがってこい」
「リット少将。私は、甲板へあがりたくてもあがれないんですの。リット少将、手を貸してください。私をひっぱりあげてください」
「ふん、厄介《やっかい》な奴じゃ。ほら、手を出せ」
 提督は手を出して、梨花の手を握った。それはびっくりするほど冷たい氷のような手であった。少女一人くらいと思って、提督はひっぱりあげにかかったが、どうしたの
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