「ああ、もう何もいうな、杉田。川上は、そんなことをなんとも思っちゃいないぞ。敵と闘って、名誉の戦傷を負った貴様じゃないか。普通なら、病院船の軟らかいベッドの上に横たわって、故国の海軍病院に送還される身の上だ。しかしここは敵地だ。いや敵地どころか、敵の懐の中なのだ。可哀そうだが、これ以上、どうしてやりようもない」
「も、もったいないことです。上官、もう沢山です」
「うん、泣くな。俺のいいたいことは、そういう重傷をうけた身でいながら、今もこの潮に洗われている鉄骨の間で頑張っている貴様のおどろくべき忍耐力を褒めてやりたいのだ。おい杉田、貴様ぐらい立派な帝国軍人はないぞ。そしてまた貴様ぐらい上官|思《おもい》の忠勇なる部下はないぞ」
「上官、もう杉田は……」
 といって、その後は波浪の砕ける音に消えてしまったようである。
 療養まだ半ばにして、汽船ブルー・チャイナ号から海中にとびこんだ杉田二等水兵は、いくたびか波浪にのまれようとした。そのたびに川上機関大尉の逞しい腕が傍からさしのべられ、彼は溺死《できし》から救われたのだ。そしてついに、目ざす飛行島の鉄骨にとりつくことができたのだった。
 
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