皆無とこたえるのが、当っているだろう。
 汽船ブルー・チャイナ号は、四千人にちかい乗組員と船客もろとも、電光の閃きのようなほんの一瞬時にして、影も形もなくなった。
 それは誰がやったのか?
 やったのは、何者だか分かっている。
 しかし憎むべきは、それを命じた者だ!
 リット戦隊司令官だ!
 リット少将の、うす気味わるい微笑の謎は、ここにはじめて解けたのだ。
「飛行島の秘密は、永遠に完全を護らなければならない」
 彼はそれを神の前でいい放ち、そして実行したのだ。なんという非道なことであろう。
 利益のためには手段を選ばず恥も知らないという、やり方がこれである。
 あわれ、誰も彼も、みな死んでしまった。一々名前をあげることさえ、われわれには忍びないではないか。
 しかし眼を蔽っていてはならない。そのなかに世界の公敵が大手をふって闊歩するのを見おとしてはならない。
 だが、正義は神である。飛行島を出発したときの汽船ブルー・チャイナ号に乗っていた者のなかで、危く命びろいをした者が少くとも二人はあった。
 その二人は、今暗い海上を互に呼びあい、励ましあって泳いでいる。
「どうだ、見たか。ずいぶ
前へ 次へ
全258ページ中210ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング