て来ないぞ」
と、太っちょの大辻という二等水兵が、士官室の方に通ずる入口を見やった。
「まったく遅いねえ。艦長のところで、杉田はなにか申開きのできない始末になっているのじゃないかね」
と、同僚があいづちをうった。
すると別の水兵が、いきなり顔を大辻の方に出して、
「おい大辻」
「なんだ。魚崎」
「なんだじゃないぜ。貴様が余計なおしゃべりをするから、杉田がこんな目にあうんだぞ」
「なんだって、俺が余計なおしゃべりをしたって。なにをいうんだ。この大辻さまは、余計なことなんか一言もしゃべったことはないぞ」
魚崎はじめ同僚が噴きだした。大辻のおしゃべりは艦内の名物だ。彼が何かを知ったら、それから十分後には、艦内の水兵たちが皆それを知ってしまうくらいだ。
「なにをいっているのだ。大辻、貴様がいけないんだぞ。川上機関大尉の服は全部私室に揃っております。だから機関大尉はいま素裸でいられるのでありますなどと、余計なことをいったじゃないか」
「あれえ、――」
と大辻はぐりぐり眼玉をむいて、
「こら魚崎、そういったのが、どこがいけないんだ。それは本当のことじゃないか。それとも貴様は、上官に対し嘘
前へ
次へ
全258ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング