った。一たいどうしたというのだろう。浮かぶ飛行島をめぐる怪事件の幕は、こうして切って落された。
 極東の風雲急なるとき、突如として練習艦隊内に起ったこの事件は、そもいかなる意味があるのか。
 南シナ海の上は、今日もギラギラと熱帯の太陽が照りつけて、海は毒を流したように真青であった。


   おしゃべり水兵


 幾度考えてみても、奇怪な事件である。
 だが、奇怪なのはそればかりでなかった。
 長谷部大尉が、水兵から聞いたところによると、機関大尉の服は一着のこらず、ちゃんと私室に揃っているというのである。
 それなら機関大尉は、いま裸でいなければならぬ理窟になる。
 ところが、いつも身のまわりの世話をしていた杉田二等水兵の話によると、彼は機関大尉に連れられて、その日の午後飛行島に上陸したが、その時機関大尉はちゃんと海軍将校の服装をしていたという。
 実に奇妙な話である。この謎は一たいどう解けばいいのだろうか。
 練習艦明石は、怪事件をのせたまま夜を迎えた。
 いつも夜は元気のいい水兵たちの笑声で賑やかな兵員室も、今夜にかぎってなんとなく重苦しい空気につつまれていた。
「杉田は、まだ帰っ
前へ 次へ
全258ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング