(許さん――と一旦司令官がいわれたら、なかなか許すとはいわれない)
そのとき大尉が思い出したのは、川上機関大尉の部屋をしらべてみるということだった。
彼はすぐさま、その足で川上機関大尉私室へいってみた。
すると、その私室の前には、四五名の兵員が声高になにか論争していた。
彼等は長谷部大尉の姿を見ると、ぴたりと口を閉じて、一せいに敬礼をした。
「お前たちは、何を騒いどるのか」
すると兵の一人が、
「はっ、私は不思議なることを発見いたしました。川上機関大尉の衣服箱を検査しましたところ、軍帽も服も靴も、すべて員数が揃っております。つまり服装は全部ここに揃っているのであります。機関大尉は素裸《すっぱだか》でいられるように思われます」
「なに、服装は全部揃っているって。なるほど、それでは裸でいなければならぬ勘定になるが、しかし川上機関大尉は軍服を着て舷門から出ていったんだぞ。それは杉田二等水兵が知っとる」
「おかしくはありますが、本当に揃っているのでありまして、不思議というほかないのであります」
兵は自説をくりかえした。
そうなると、長谷部大尉も、ふーむとうならないわけにゆかなか
前へ
次へ
全258ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング