をつけとでもいうのか。次第によっては、日頃汁粉を奢《おご》ってもらっている貴様といえども、許さんぞ。上官に対し嘘をつけというのか。やい」
「そんなことはいっとらん。余計なことをいうなといっとる。貴様のいった、いま素裸でいられますは、余計なことじゃないか。帝国軍人が、いくら暑いからといって、こんな外人のいるところへ来て、不恰好な素裸でいられるものかい。帝国軍人の威信に関わる」
「おや、なんだか議論が怪しくなったね。さては貴様、俺にいいまかされたことがやっと分かったんだろう。軍服が全部揃ってりゃ、素裸でいるにきまってるじゃないか」
「ばかをいえ。絶対に素裸でいられない」
「なにがばかだ。服がなけりゃ素裸でいるよりほかにしようがないじゃないか」
「へへん、そうじゃないよ。俺は信ずる。すくなくとも褌《ふんどし》はしめていられると」
「ふ、ん、ど、し!」
 大辻は狒々《ひひ》のように大口をあいて、
「ば、ばかっ」
「いや、それは冗談だが、襦袢を着ていられるかもしれない。または寝間着を着とられるかもしれない。いろんな場合があるんだ。だのに、貴様はあわてて、私室に軍服がそっくり揃っていますから、いま
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