でんぐでんに酔払ったり、その揚句のはてに呶鳴ったり打つ蹴るの激しい喧嘩をやっている者もある。
 まるで裏|街《まち》みたいなところもある。
 その間を、帝国軍人はきちんとして通り、皇軍の威容を、飛行島の連中にも心に痛いほど知らせることができた。
 夕方の午後六時になって、総員帰艦を終った。
 総員の点呼がはじまった。
 もちろん、一人のこらず皆、帰艦している――と思いの外、ここにはからずも意外な椿事《ちんじ》が起った。
「川上機関大尉が見えません」
 驚くべきことが、副長のもとへ届けられた。
「なに、川上機関大尉がまだ帰艦していないというのか」
 副長もさすがに驚きの色をかくすことができなかった。
「もう一度、手分して艦内をさがせ」
 そこでまたもや捜索となったが、どうしても川上機関大尉の姿が見えない。
 どうしたというのだろう。
 大尉の身のまわりをしている杉田二等水兵が副長の前によびだされた。
「川上機関大尉の上陸したのを知っているか」
「はい知っております。午後三時十分ごろ、自分と一しょに舷門を出て行かれました」
「うむ、それからどうした」
「はあ。それから機関大尉と甲板の上まで
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