こで字下げ終わり]
目醒《めざま》し腕時計
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
社員「なアんだ。腕時計じゃないか。しかも型が大きくてアンチ・モダンだ。……君は普段《ふだん》モダン日本を読んでないんだろ。」
小僧「どうも有難うござい。……この型の大きいのは、目醒しになっとるのでございまして……。」
社員「目醒しなんか意味無い。」
小僧「……ことは無くて大有りです。あンさんは、昼間の五分の居睡りは、瀕死《ひんし》の病人を蘇《よみがえ》らせるということを御存知ですか。」
社員「ウソをつけ!」
小僧「イエ本当でございますよ。内輪《うちわ》に見積りましても、俄然《がぜん》元気を恢復して、居睡りのあと、仕事が捗《はかど》りますデス。そこで居睡りをすることをお薦《すす》めいたしますが、そのとき無くて無らぬのは、この目醒しつきの腕時計でございます。目醒しとしては極めて小型にして軽便、ベルの鳴り心地も大きからず、また小さからず。重役の耳には入らねど、御自分を起すには充分です。これを自席に帳簿を立ててその蔭で行うとか、或いはまた電車の中にて、乗換えまでの僅少なる時間を利用して行うとか……。」
前へ
次へ
全23ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング