馬団のふところには、ひどくひびくのであった。この団長さん、なかなかこまかい人物だった。
 二人は、にぎやかな商店街をぬけて、なんだか、せせこましい長屋町に入りこんだ。そこは鼠色《ねずみいろ》の土ほこりの立つ、妙にすえくさいさびた鉄粉《てっぷん》のにおう場所で、まだ、ところどころに、まっ黒な水のよどんだ沼地があった。
 だが、房枝には、こういう建てこんだ棟割長屋《むねわりながや》が、ことの外《ほか》なつかしかった。それは房枝が、まだ見ぬ両親の家を思い出したからだ。
(こうした棟割長屋のどこかに、自分の両親が暮しているのではないか)
 そう思えば、房枝には、一軒一軒の家が、ただなつかしくて仕方がないのだ。家々には、大勢の家族がにぎやかに暮している。なにやら、うまそうに煮えている匂《におい》もする。赤ちゃんが泣いている。よぼよぼしたお婆さんが、杖をつきながら露地《ろじ》の奥からあらわれて、まぶしそうに、通《とおり》をながめる。飴屋《あめや》さんが、太鼓《たいこ》を鳴らしながら子供たちをお供にして通る。
 どれを見ても、一つとして、房枝にはなつかしくないものはなかった。房枝は、いくたびか、通り
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