馬団のふところには、ひどくひびくのであった。この団長さん、なかなかこまかい人物だった。
二人は、にぎやかな商店街をぬけて、なんだか、せせこましい長屋町に入りこんだ。そこは鼠色《ねずみいろ》の土ほこりの立つ、妙にすえくさいさびた鉄粉《てっぷん》のにおう場所で、まだ、ところどころに、まっ黒な水のよどんだ沼地があった。
だが、房枝には、こういう建てこんだ棟割長屋《むねわりながや》が、ことの外《ほか》なつかしかった。それは房枝が、まだ見ぬ両親の家を思い出したからだ。
(こうした棟割長屋のどこかに、自分の両親が暮しているのではないか)
そう思えば、房枝には、一軒一軒の家が、ただなつかしくて仕方がないのだ。家々には、大勢の家族がにぎやかに暮している。なにやら、うまそうに煮えている匂《におい》もする。赤ちゃんが泣いている。よぼよぼしたお婆さんが、杖をつきながら露地《ろじ》の奥からあらわれて、まぶしそうに、通《とおり》をながめる。飴屋《あめや》さんが、太鼓《たいこ》を鳴らしながら子供たちをお供にして通る。
どれを見ても、一つとして、房枝にはなつかしくないものはなかった。房枝は、いくたびか、通り
前へ
次へ
全217ページ中99ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング