名が、うまく口すぎが出来ていくであろうかと思えば、この下検分《したけんぶん》の使の責任は重く、目の前が暗くなる思いがするのであったが、それでも房枝は、メキシコにいるときから、いくたびとなく夢にみていたなつかしい東京の土地を踏むのだと思うと、やっぱりうれしさの方がこみあげて来た。
「あら、もう、ここは東京なのね」
 省線電車《しょうせんでんしゃ》が、川崎を出て長い鉄橋を北へ越えると、そこはもう東京になっていた。房枝は、窓越しに、工場ばかり見える町の風景に、なつかしい瞳を走らせた。
 新団長の黒川は、ふーんと、生返事をしたばかりで、電車の中にぶらさがっているハイキングの広告に、注意をうばわれていた。
(このごろのお客さんは、みんなハイキングにいってしまって、曲馬団なんかに、ふりむかないのじゃないかなあ。そうなりゃ、飯の食いあげだ)
 と、この新団長には、車内の広告が、はなはだ心配のたねとなった。
 電車が蒲田《かまた》駅につくと、二人は、あわてて下りた。
 駅前にはバスがあるのに、黒川はそれに乗ろうとせず、てくてくと歩きだした。たとえ一円でも、これから先にはっきりしたあてのない今のミマツ曲
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