爆薬の花籠
海野十三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)祖国《そこく》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)今|抱《かか》えられている
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)かいこ[#「かいこ」に傍点]だなの
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祖国《そこく》近《ちか》し
房枝《ふさえ》は、三等船室の丸窓《まるまど》に、顔をおしあてて、左へ左へと走りさる大波のうねりを、ぼんやりと、ながめていた。
波の背に、さっきまでは、入日の残光《ざんこう》がきらきらとうつくしくかがやいていたが、今はもう空も雲も海も、鼠色《ねずみいろ》の一色にぬりつぶされてしまった。
「ああ」
房枝は、ため息をした。つめたい丸窓のガラスが、房枝の息でぼーっと白くくもった。
なぜか、房枝は、しずかな夕暮の空を、ひとりぼっちで眺《なが》めるのがたまらなく好きだ。そしていつも心ぼそく吐息《といき》をついてしまうのである。
彼女は、両親の顔も知らない曲馬団《きょくばだん》の一少女だった。
彼女が、今|抱《かか》えられているミマツ曲馬団は主に、外国をうって
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