ら、肌着や服までもらったのである。そぞろ情《なさけ》が身にしみる。
だが、その一方において、外事課《がいじか》の係官のため、厳重な取調べをうけた。なにしろ国籍のあやしい者がぬからぬ顔で入りこんでくるのを警戒する必要があったし、その上、雷洋丸の爆沈原因をつきとめるためにも、生き残った人たちをよく調べる必要があったのである。
「あなたの原籍《げんせき》は?」
係官は、用紙をのべて、取調をすすめる。
「さあ」
房枝は、困ってしまった。彼女は、両親を知らない。だから、原籍がどこであるか、そんなことは知らない。
松ヶ谷団長がいてくれれば、ここは、うまくとりつくろうことができたのであるが、団長は大怪我《おおけが》をしたと聞いた後に、どうなったかよく知らない。
「原籍をいいなさい」
「原籍は存じません。あたくし、あたくしは、捨子なんです」
「捨子だって、君がかい」
係官は、眼鏡越しに、目を光らせた。原籍を知らぬ奴はあやしい。
「でも、おかしいじゃないか。君の話だと、この前、日本を出発して外国へ渡航したそうだね。そのとき、もし原籍を書かなければ、旅行は許可されないよ。そのとき、原籍はどこと書
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