こに立っている帆村君が、大苦心をして、とってきてくれたのだが、惜しいところで、大きいのを紛失して、残ったのは、そこにある紙にのっているわずかばかりだけですわい」
と、長官は、卓子の上を指した。
「えっ、この紙ですか。どこに、それが」
博士が、面食《めんくら》うのもむりではなかった。帆村は、また冷汗をながした。そして博士に、残る微量のX塗料のことを説明したのであった。
「どうですか、博士。それだけの資料によって、X塗料の正体を、うまく分析ができるでしょうか」
博士は、非常に慎重《しんちょう》な手つきで、X塗料の粉の入った紙を目のそばへ近づけ、しさいに見ていたが、やがて、力なげに首をふった。
「彦田博士、どうですかのう」
「長官。これでは、微量すぎます。残念ながら、定量《ていりょう》分析は不可能です」
「出来ないのですな」
黄島長官は、はげしい失望をかくすように目をとじた。
彦田博士も、帆村荘六も、しばし厳粛《げんしゅく》な顔で沈黙していた。しかし、ついに博士が口を開いた。
「長官。何しろこの外に品物がないのですから、困難だと思いますが、私はこれを持ちかえった上で、出来るかぎりの
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